1. 細胞操作メカノバイオマテリアル

1. 細胞操作メカノバイオマテリアルの創製

微視的培養力学場設計による細胞運動制御:デュロタクシス誘導条件の決定

生体内における細胞の形態・運動性・機能は,その細胞の属する組織が感受する種々の静的ないし動的な力学環境(生体力学場)により重要な調節を受 けています.このような細胞外力学環境の設計・制御は,細胞行動と機能の制御とともに適切な組織形成誘導の基礎として,再生医工学用人工基材(骨格基材や人工細 胞外マトリックス等)の開発における主要課題の一つです.この課題に対しては,人工基材における細胞外力学環境の微視的レベルでの設計と,その結果誘導される細胞行動・機能調節および組織の力学応答との間の関係を系統的に把握することが必要です.

当研究室では,微視的細胞培養力学場の設計による細胞行動の制御に焦点を当て、特に、細胞のデュロタクシスを自在に操作する技術を確立してきました。デュロタクシス(durotaxis)は細胞が周囲組織のより硬い領域を指向して移動する性質(機械的走性)であり,細胞増殖 因子等の生化学分子の濃度勾配感受性のハプトタキシス(haptotaxis)とともに,材料設計に基づく細胞運動操作技術の基盤の一つとして注目されています.細胞のナノメカニクス解析に基づき,デュロタクシスの方向および速度等を定量的に制御し得る二次元あるいは三次元の人工基材の力学環境条件を明らかにし,その微細設計・分子設計の指針に応用します.

弾性マイクロパターニングゲルを用いた幹細胞フラストレーション・メカノ活性化の誘導

生体内における幹細胞の機能制御は幹細胞ニッシェと呼ばれる細胞外の微視的環境条件に強く依存します。その人工的再現のための工学的取り組みは幹細胞操作技術開発の目標の一つです。その取り組みに関して、幹細胞の分化系統が、生体組織力学場に類似した弾性特性を有する培養基材条件に依存して決定され得るとの知見が注目を集め、メカノバイオミメティックな幹細胞操作技術の基礎として期待されています。このような課題に関連し、当研究室ではこれまでに、細胞培養基材の微視的力学場設計による細胞挙動の系統的評価と、それに基づく細胞操作・機能制御の研究を進めてきました。光硬化性ハイドロゲル材料に対する精密マイクロ弾性パターニング技術を独自に確立することにより、特に幹細胞の運動操作に連動した機能操作法として〜幹細胞分化フラストレーション〜を見出しました。

すなわち、硬・軟領域を微細パターン化したゲル上で、間葉系幹細胞(MSC)を培養すると、MSCは基材上の硬・軟いずれへの領域へも定住しない運動モードを示しますが、そのような状態で1週間培養した後にMSCの幹細胞性を評価したところ、MSCの各種幹細胞マーカーの発現および神経・筋・骨分化マーカーの発現抑制を示し、通常のプラスチックシャーレ上での培養に比べ、より良質の未分化状態を維持していることがわかりました。MSCは培養床の弾性率に依存して異なる細胞種へ分化することが報告されており、もし硬・軟領域のいずれかに一定時間以上定住すると、特定の系統への分化方向の決定が起こるが、以上の観察は硬・軟領域をランダムあるいは周期的に経験させるとMSCの系統決定がブロックされるものと考えられ、幹細胞の未分化能維持マトリックスとしての機能が発現する可能性を示しています。我々は独自にこのような培養モードを幹細胞の“分化フラストレーション”と名付けました。さらにこの状態の細胞の遺伝子発現パターンを解析すると、幹細胞の健常性と治療有効性の機能に関わる遺伝子群が広範囲に活性化していることがわかりました。この状態の細胞をメカノ活性化細胞と呼び、現在、新たな治療効果増強幹細胞製品の創出に向けて実用化を目指した取り組みを推進しています(2023年日欧中3カ国で特許成立)。

接着斑クラッチ分子集合へのマトリックス変形性効果の解明と活用

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